「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し。急ぐべからず。」
「徳川家康公遺訓 人の一生は重荷を負って遠き道を行くが如し、急ぐべからず――」 日本歴史遺産研究会著
蕎麦29東京
1日60万人が乗り降りすると言われる東京駅。
その改札内で、新幹線の時間を気にしながら、きちんと食事を取るという選択は、案外むずかしいものです。
「蕎麦29東京」は、そんな状況の中でも、ちょっと綺麗な店内で逆に入りにくいと思う方に、また、この後の移動時間に腹持ちするのか?といった不安にこたえるページです。
また、月見肉そばを前に、卵をつぶす/つぶさない問題。それぞれのメリットデメリットを紹介します。

蕎麦29東京
この店は、どういう“系統”の店か
蕎麦29東京は、2020年3月に東京駅八重洲中央改札内にオープンした肉蕎麦専門店だ。 開業当時の運営は、JR東日本グループの外食部門を長く担ってきた 株式会社日本レストランエンタプライズ(NRE)。 食堂車から駅弁、駅そばまで幅広く手がけてきた企業で、駅ナカ飲食の基盤をつくった存在でもある。 なおNREはその後、グループ再編により 2021年にJR東日本クロスステーションへ統合され、法人としては消滅している。 現在の店舗運営はクロスステーションのフーズカンパニーが継承している。
この店は、昔ながらの駅そばの延長線上にある業態ではなく、最初から“肉蕎麦”に特化した新ブランドとして設計された点が特徴的だ。 店名の「29」は二八蕎麦を示す数字ではなく、あえて “肉(にく)” を前面に出した語呂合わせ。 開店日を3月29日、いわゆる“肉の日”に合わせているのもその象徴だ。 蕎麦・肉・つけ汁の三要素にそれぞれ役割を持たせ、駅そばという既存の枠に別の文脈を持ち込もうとした意図が読み取れる。
入店理由
品のある立ち食いそば「蕎麦29東京」
東京八重洲中央口を通ると見えてくる「蕎麦29東京」の看板。二八蕎麦とかいうが、二十九では十割に超えている。
面白い店名でだと近くまでにいき、看板を目にした瞬間、立ち食い蕎麦としてはやや強気な値段設定だと分かる。 入る前から、ほんの少し足が止まる。
ただ、新幹線の発車時刻を考えると、ここで決めなければならない。
頭に浮かぶのは駅弁との値段比較。しかし、いちばん避けたいのは、迷っているうちに時間が来てしまい、何も買えないまま乗り込む展開だ。
そうなれば、車内で食べ物を調達する選択肢すらなくなる。 値段か、時間か。それとも空腹か。 いろいろ考えているようで、実際には考える余裕などほとんどなく、もはや決断の瞬間だった。
店外の券売機の前に立ち、月見肉そばのボタンを押す。


蕎麦29東京の店内
入ってみたら、どうだったか
店の入口は少し狭い気がしたが、中に入ると意外に奥行きがある。立ち食いだが、ぎゅうぎゅうという感じではない。
客層は比較的年齢が高めで、落ち着いた印象だ。つけ麺的な蕎麦を食べている人が多く、この店の主流がなんとなく伝わってくる。
出張用のカバンを持っていたが、棚は見当たらない。
床に置くのは避けたいと思っていたところ、足元にフックがあることに気づく。
ただ、少し覗き込まないと分からない位置で、そこにカバンを引っ掛けるのもなかなか骨が折れる。着替えも入った、まあまあなボリュームのカバンだったからなおさらだ。それでも、店内は清潔感があって、その点は素直によかった。
実食
月見肉そばを食す

月見肉そば 770円
食券を渡すと、そのままお渡し口で待つ流れになる。
席に移動したり、場所を探したりする必要はない。ただ、立って待たされるような時間でもなく、体感としては一分もかかっていない。
東京駅の中という場所を考えると、このテンポはかなりいい。
今回、注文したのは月見肉そば。
目の前に置かれた器を見ると、肉と卵が乗っているのは想定どおりだったが、ネギが思った以上に多い。印象としては、月見肉ネギそばと言ったほうがしっくりくる。
蕎麦より先に、肉の存在感がはっきりと伝わってくる構成で、名前のとおり「肉蕎麦」であることを意識させられる。
一口目。つゆは甘辛さがあり、蕎麦単体で味わうというより、つけそばに合わせることを前提にしたバランスに感じる。肉の旨みや脂もつゆ側に出てきていて、全体としては力強い方向に寄っている。
食べ進めていくと、自然と肉と蕎麦を交互に口に運ぶ流れになる。途中から、つゆの濃さをどう感じるかは人によって分かれそうだが、印象が薄くなることはない。立ち食い蕎麦にありがちな軽さより、「ちゃんと食べている」という感触のほうが残る。
肉も食べ応えがあり、短時間で食べられるが、食事を省略した感じにはならない。いなりやおにぎりがなくても、十分お腹に溜まってくる。
立ち食いそばの月見そば、卵をつぶす/つぶさない問題
月見肉そばを前にすると、正直なところ、卵をどう扱うかで少し迷う。
そこで一度、卵をつぶす場合と、つぶさない場合のメリットとデメリットを考えてみた。

最初につぶしてしまえば、味は安定する。つゆの甘辛さや肉の旨みが早い段階でまとまり、新幹線前で時間がないときには、その判断はかなり合理的だ。ただ、そのぶん、一杯の中での変化は少なくなる。
一方、卵をそのまま残しておくと、いつ割るかを考えながら食べることになる。
前半はつゆと蕎麦、後半に黄身を混ぜるという選択肢も出てくる。そのぶん迷いは生まれるが、一杯の中で時間が少し伸びる。
どちらが向いているかは、人よりもその日の状況次第だと思う。
月見そばは、急げば一気にかき込むこともできるし、逆に立ち止まって味わうこともできる。
訪問後記
「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し。急ぐべからず。」
「徳川家康公遺訓 人の一生は重荷を負って遠き道を行くが如し、急ぐべからず――」 日本歴史遺産研究会著
徳川家康(1543–1616)は、戦国の乱世を終わらせ、江戸幕府を開いた初代将軍です。幼い頃から織田家・今川家のもとで人質として過ごし、慎重さと忍耐力を身につけました。
桶狭間の戦い後に独立し、織田信長と同盟を結んで勢力を拡大。本能寺の変の混乱を乗り越え、1600年の関ヶ原の戦いで天下の主導権を握ります。1603年に征夷大将軍となり、約260年続く江戸時代の基盤を築きました。 その政治は「安定」を重視し、法整備や外交、経済政策など多方面で長期的な視点を持っていたことが特徴です。死後は「東照大権現」として神格化され、日光東照宮に祀られています。慎重でありながら決断すべき時は迷わない人物像
徳川家康のこの言葉は、人生は近道できるものではなく、責任や迷いを抱えながら、長い道を進んでいくものだ、という意味で語られることが多い。
だからこそ、焦って先へ先へと進もうとせず、一歩一歩を確かめながら進め、という戒めでもある。急ぐこと自体を否定しているのではなく、急ぎすぎることで、大事な選択を雑にしてしまうな、という静かな忠告に近い。
店とのつながり
新幹線の時間を気にしながら東京駅で食事をする状況は、どうしても判断が早くなりがちだ。
それでも、月見肉そばを前にすると、卵をいつ割るかで一瞬立ち止まってしまう。
立ち食いで、提供も早く、さっと食べられる店なのに、食べ方ひとつで迷いが生まれる。
その小さな迷いが、この店での食事を、ただの移動途中で終わらせなかった。
自分の学び
卵を最初につぶしてしまえば、味はすぐに落ち着く。 つぶさずに残しておけば、どこかに揺らぎが残ったまま最後まで付き合うことになる。
どちらが正しいわけでもない。 ただ、その小さな迷いを抱えたまま箸を進める時間が、思いのほか悪くなかった。 急いでいるときほど、ほんの一瞬でも立ち止まれる余白が必要なのかもしれない。
そんなことを考えていた矢先、「早く食べてもらえませんか」と、 吉岡さんが少し苛立った声で言った。
「いや卵が・・・」
「何言ってんすか?」
確かに、悪いのは私だ。
店舗情報
店名:蕎麦29東京
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1JR東京駅 八重洲中央口改札内
最寄駅:JR東京駅(八重洲中央口・改札内)



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