All for one. One for all
デュマ
手もみラーメン十八番
荻窪駅北口、夜だけ灯る「手もみラーメン十八番」を訪れました。昭和レトロな店構えに、カウンター越しの厨房はまるで即興コントのようです。ワンタンメンや餃子も良いですが、最後に思うのは、やはり特製十八番の存在でした。人と空気ごと味わう一杯です。

入店きっかけ・理由
21時、荻窪駅。
仕事終わりに吉岡さんと、なんとなくラーメンを食べたいね、という流れになった。
せっかくだし、お疲れの一杯もやりたいな、なんて気分もある。
そう考えると、自然と頭に浮かぶのは十八番だろう。
時間も時間だし、混んでたらどうしようかと思ったけれど、ちょうど席が二つ空いていた。
これはもう、グッドタイミング。
ガラガラとドアを横に滑らせ、そのまま店に入った。
昭和レトロな店構えとカウンター席の臨場感
黄色いテントに、横にスライドする透明のドア。
昭和の商店街を思わせる外観で、入店前からノスタルジックなわくわく感が高まる。
店内はカウンターのみ十席。厨房には男性スタッフが三名いる。
前回は二名だったので一名増えているが、新人の雰囲気はない。以前からいる方だろう。
前回よりも早い時間ということもあり、親子連れや女性お一人様での入店も見かけた。
意外にも、カップルかどうかは定かではないが、男女二名のお客さんが多い印象だ。
カウンターに置かれたメニューもまたノスタルジックでよい。
肌感覚としては隣との距離は近く、むしろ詰め詰めだが、その感じも含めて、これもまたノスタルジックでいいと思う。
注文
注文は口頭で伝える。
券売機ではない分、カウンター前で少し立ち止まり、メニューを吟味する時間がある。それが妙に落ち着くし、これはこれで嬉しい。
メニューは、荻窪ラーメンを象徴する醤油ラーメンに加えて、味噌ラーメンも用意されている。
中でも目に入るのが看板メニューの「特製十八番」。前回食べたときの感動が強く、正直なところ、今回も迷わずそれでいきたい気持ちはあった。
ただ、翌朝から取引先との重要な商談を控えている。
あのニンニク強めの特製十八番をこのタイミングで選ぶのは、さすがにリスクが高い。
少しだけ逡巡した末、今回は特製十八番をやむを得ず諦め、荻窪ラーメンを代表するワンタンメンを注文した。
とはいえ、吉岡さんも一緒だったので、今回は餃子も頼み、二人でシェアして食べることにした。
特製十八番はダメで、餃子は良いというロジックが成り立たない感じもするが、そこは問題ない。
それくらい、特製十八番のニンニクパワーは別格なのだ。
詳しくは、前回のレポートを参照頂きたい。
メニュー一覧
■ らーめん
- 特製十八番 1050円
- ラーメン 800円
- ねぎラーメン 900円
- ャーシューメン 1100円
- みそラーメン 1000円
- ワンタンメン 950円
- ワンタン 800円
- つけ麺(麺2玉) 950円
■ そのた
- チ
- 餃子(6ヶ) 600円
- 半餃子(3ヶ) 300円
- 瓶ビール(キリン・アサヒ) 600円
- ライス 200円
- 麺大盛り +150円

荻窪ラーメン十八番の歴史と成り立ち
荻窪ラーメン十八番は、1966年(昭和41年)に創業したとされる老舗。
荻窪駅北口の線路沿いに店を構え、当初は中華料理店として営業していたという。
賄い料理から始まったエピソード
店の代名詞となった「特製十八番」は、もともと正式なメニューではなかったという。
スタッフ向けの賄い料理として作られていた一杯が、常連客の要望をきっかけに提供されるようになり、次第に定着していったらしい。
偶然から生まれ、自然と受け入れられていった、という点にこの店らしさがある。
店の顔としての定着
「特製十八番」は、いつしか店を象徴する存在となり、十八番を語るうえで欠かせない名前になっていったようだ。
具体的な味わい以上に、「あの一杯」を目当てに通う人が増えていった、という文脈で語られることが多い。
継承と街との距離感
現在は二代目が店を継いでいるとされ、埼玉方面には暖簾分けの店もあるらしい。
親子三代で通う常連がいるという話もあり、十八番が荻窪の街に自然と溶け込んできた存在であることがうかがえる。
長く続いてきた理由は、派手さよりも、日常の延長線にある一杯を積み重ねてきたからなのかもしれない。
ワンタンメンと味噌ラーメン、そして餃子

まずは自分のワンタンメンから。
丼が置かれた瞬間、湯気と一緒に立ち上がるのは、いかにも荻窪ラーメンらしい、やさしい醤油の香り。派手さはないが、落ち着く匂いだ。
スープは澄んでいて、口に含むと豚骨のコクは感じつつも重さはなく、醤油の輪郭もきつすぎない。
飲み進めるほどに、じわじわと旨みが広がるタイプで、夜の時間帯にはちょうどいいバランスだと思う。
ワンタンは皮がつるりとしていて、口当たりがいい。
中の餡は主張しすぎず、スープの邪魔をしない存在感で、箸休めのように自然と馴染む。
麺は手もみの中太ちぢれで、スープをほどよく持ち上げてくれる。
一方、吉岡さんが頼んだ味噌ラーメン。
こちらも安定感はあるが、二つを比べると、今回はワンタンメンに軍配が上がる印象だった。
そして、二人でシェアした餃子。
焼き目はややしっかりめで、その焦げ具合がどこかノスタルジックでいい。
一口かじると、ニラ多めの香りがふわっと広がり、素直な餡が後を引く。
ラーメンの合間に挟むと、いいリズムになる存在だ。

ワンタンメンは満足度の高い一杯だったし、選択としては間違っていなかったと思う。
ただ、こうして食べ終えてみると、やはり最後に行き着くのは特製十八番だ、という気持ちも正直ある。
今回は事情があって見送ったが、十八番に来たなら、やはり特製十八番がいい。
あえて、そうお伝えしておきたい。
ねじれ鉢巻きのガラガラ声が支配する厨房
厨房に目を向けると、自然と役者がそろっていることに気づく。
イケメンの店主、フライパンを振るタオル男、麺担当のスキンヘッド、そして、ねじれ鉢巻きを巻いたガラガラ声の男。
このガラガラ声が、とにかくいい。
声そのものが店の空気を作っていて、厨房全体がひとつのコントのように見えてくる。
店主は、そのガラガラ声によく話しかけている。
今どこの注文をやっているのか、どの席のラーメンなのか。
ガラガラ声が迷わないように、コントロールしているようにも見える。
ガラガラ声は、番号で呼ばれたカウンターの席の位置を言葉にしながら、注文内容を口にする。
その様子は、確認というより、リズムだ。
ただ、ガラガラ声がたまにミスをする。
けれど、店主は何も言わない。
叱るでもなく、指摘するでもなく、ただ笑顔でにらみつけるだけだ。
それはまるで、次のチャレンジを推奨しているかのようにも見える。
十八番のラーメンが看板なのは間違いない。
けれど、このガラガラ声もまた、この店の立派な看板なのだと思う。

訪問後記
名言の紹介
All for one. One for all
デュマ
この言葉は、フランスの作家アレクサンドル・デュマが1844年に発表した『三銃士』の中で広く知られるようになった言葉だという。
仲間同士の絶対的な連帯を示す合言葉として、物語の中で繰り返し使われている。
この言葉が今もなお支持され続ける理由は、とても単純だ。
誰かのために動くことと、誰かが自分を支えてくれること。
その関係が、これ以上ないほど分かりやすく、対称的に示されているからだ。
店とのつながり
十八番の厨房を眺めていると、この言葉が自然と頭に浮かぶ。
誰か一人で完結しているわけではなく、それぞれが役割を担い、支え合って一杯が出来上がる。
まさに、all for one. One for all。
この言葉は、厨房の中で説明もなく、毎晩実演されているように見えた。
自分の学び
ふと、自分の仕事に置き換えて考えてしまった。
自分は、誰かのガラガラ声を支えられているだろうか。
そして、自分は誰かのために、番号を読み上げる役を担えているだろうか。
十八番のラーメンももちろんいい。
けれど、それ以上に印象に残ったのは、役割を引き受け続ける人たちの関係性だった。
この言葉は、本の中だけのものではなく、
荻窪のカウンター越しに、今もちゃんと生きている。
アクセス・店舗情報
- 店名:手もみラーメン 十八番
- 住所:東京都杉並区上荻1-4-10
- アクセス:荻窪駅北口より徒歩2〜3分
- 営業時間:
月〜土 18:00〜0:30
日・祝 18:00〜23:30 - 席数:カウンターのみ約10席
- 支払い:現金のみ
- 定休日:不定(正月・お盆休みあり)

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