市川駅北口の商店街「市川アイアイロード」を歩きながら、昭和レトロな街並みと現代的なチェーン店が共存する風景を楽しむ。そんな街で出会ったのは、イタリアンファミリーレストランの代表格「サイゼリヤ」。創業から半世紀以上、低価格で本格イタリアンを提供し続ける企業の背景と、実際に味わったイカの墨入りセピアソースの体験をレポートする。
昭和レトロな商店街
市川駅近くで荷物を届ける仕事を終えた後、ふと小腹が空いた。普段あまり足を運ばない街なので、どこで食事を取るか迷う。とりあえず賑わいを感じる商店街「市川アイアイロード」へ足を向ける。戦後の闇市を起源に昭和期には「市川駅前マーケット」と呼ばれたこの通りは、今では歩行者専用道路として整備され、昭和レトロな看板と現代的な店舗が共存する独特の雰囲気を残しているという。
名前の由来は「I(私)が I(愛する) I(市川)」という意味で、地元愛を込めたネーミングだという。小文字のiの上の点はハート。すこぶるダサいがそれが味となってる。そんな歴史を感じながら歩くと、並ぶのはチェーン店が中心。悪くはないが、時間は14時と中途半端。視線の先に見えたのは2階にあるサイゼリヤ。実はこのサイゼリヤ、発祥の地は隣駅の本八幡。頑張れば歩いて行ける距離であり、広義では「ほぼ発祥の地」と言える場所だ。そんな理由もあって、今回はサイゼリヤに決めた。普段は混雑しているが、この時間ならゆったりできそうだと判断し、階段を上がることにした。
サイゼリヤ店内の雰囲気
サイゼリヤは1967年、千葉県市川市本八幡で創業した。創業者・正垣泰彦氏は、開店から数か月後に火災で店舗を失うという試練に直面したが、そこで諦めず再起を決意した。そして、他店との差別化を図るため、当時高級だったイタリア料理に着目したのである。さらに、「安くて美味しいイタリアンを多くの人に」という理念を掲げ、低価格で提供するために徹底したコスト削減と効率化を進めた。高級なものを低価格にして庶民めも食べれるものにした功績はデカい。多分。
階段を上がり、ガラス扉を開けると、広がるのは明るく開放的な空間。午後2時という時間帯のせいか、店内はほどよく空いていて、静かなざわめきが心地よい。窓際の席からは市川駅前の通りが見え、商店街の人の流れを眺めながら食事ができる。木目調のテーブルと赤いソファが並び、どこか安心感を与える雰囲気。壁にはイタリアの風景写真が飾られ、チェーン店ながらも異国情緒を演出している。
創業秘話と半世紀の歩み
1973年には法人化し、1977年から多店舗展開を開始。やがて1980年代には駅ビルやショッピングセンターへの進出で全国展開の基盤を築いた。続いて1999年に東証二部へ上場、翌年には一部へ指定替え。さらに2000年代以降は海外進出も加速し、中国やアジア諸国に店舗を展開。
現在では国内外で1500店舗以上を誇るファミリーレストランチェーンに成長している。理念は「日本を真に豊かな国にするお手伝いをする」。こうして、スパゲッティをラーメン並みの価格で提供するという発想から始まり、低価格と高品質を両立させてきたのである。
スマホ注文に進化!
サイゼリヤに来ると、いつも頼むのは決まってイカの墨入りセピアソース。これがなければ、来店頻度はきっと3か月は空いてしまうだろう。メニューは頭に入っているが、一応ページをめくる。本当は注文後にじっくり見たいのだが、それでは食いしん坊に見られそうで、紳士的に振る舞う。ひと通り確認して、さて注文。ところが、テーブルにメモ用紙もペンもない。店員に伝えると、スマホ注文の案内が書かれたカードを差し出された。サイゼリヤもついにこのスタイルになったかと、時代の変化を感じながらスマホを手に取り、注文を終える。
しかしながら、メモ用紙に書いて定員に渡す立ち飲み屋システムから2級飛ばしくらいの進歩だ。

イカの墨入りセピアソース
イカの墨入りセピアソースだけでは少し物足りないので、ほうれん草のソテーも追加注文。
本当はドリアにも心が揺れたが、紳士であれと自制する。
さて、運ばれてきたイカの墨入りセピアソース。メニュー写真よりも色はやや淡いが、これは想定内。フォークを手に取り、まずは軽く混ぜる。沈んでいるイカ墨をすくい上げ、全体に行き渡らせる。初心者には思いつかない、ちょっとした玄人の技だ。口に運ぶと、イカ墨の深い旨みとオリーブオイルの香りが舌に広がり、噛むほどにイカの食感が心地よい。これが本当に美味しい。
ほうれん草のソテーはシンプルながら、バターの香りがアクセントになり、パスタとの相性も抜群。
午後の静けさとともに、ゆったりとした満足感が広がり、ニヒルなほほ笑みをしていたに違いない。

幅広い客層が支える強み
午後の店内は学生から年配まで幅広い客層で賑わう。これこそがサイゼリヤの強みだろう。
低価格ながら品質を保ち、誰もが気軽に利用できる空間を提供する。その背景には、スマホ注文導入やオペレーション効率化など、現場スタッフの工夫と企業の戦略がある。
そんな中、隣に座ったのは赤い柄物ニットに大きめの色付きメガネ、首元にチーフを巻いた60代後半と思しき貴婦人。着席するや否や、メニューを開くことなくデカンタを注文する姿は、まさに常連の風格。席を離れ、戻ってきた手には鏡月グリーンかと思いきや、オリーブオイルのボトル。ピザが届くと、オイルを軽く垂らし、ワインとともに楽しむ所作は見ているだけで真似したくなる。
このような太客が、サイゼリヤの安定した業績を支えているのだろう。2025年8月期の売上は過去最高水準、国内外で約1,600店舗を展開し、年間来店者数は約3億人。私がこの店を利用できるのも、こうした常連の存在と企業努力のおかげだと、ふと感謝の念が湧いた。
帰りにペコリと貴婦人に会釈をしたが当然意味は分かってないだろう。伝わるかなと思ってやったがやっぱり伝わらなかった。
訪問後記
会社に戻り、荷物を届けたことを報告すると、先輩が「何を食べた?」と聞いてきた。思わず「口が…」まで言いかけて、心の中で「臭い」って言われるかなと身構えたが、返ってきた言葉は「口が黒いぞ」。一瞬、安堵と笑いが入り混じる。「なんか怖いな」と言い去っていた。
怖いのは、黒いこと自体なのか、それとも黒いと言われて安心して笑った自分なのか。
どちらにしても、イカの墨入りセピアソースの余韻は職場にまで影響するということだ。
今回の教訓はひとつ、食べ終わったら必ず口元をチェックすること。つまり紳士である事。
美味しさの代償は、ちょっとした恥ずかしさと笑い。市川で過ごした昼下がりは、そんな小さなドラマを添えて、記憶に残るひとときとなった。
店舗情報とアクセスと周辺情報
- 店名:サイゼリヤ 市川駅北口店
- 住所:千葉県市川市市川1丁目7-6 2F
- 最寄り駅:JR総武線「市川駅」北口から徒歩約1分
- 営業時間:10:00~1:00
- 定休日:なし(年中無休)
- 周辺環境:
- 商店街「市川アイアイロード」沿い
- 近隣に市川グランドホテル、ダイエー市川店
- 真間川散策路や国道14号沿いのカフェも徒歩圏内
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