吉祥寺駅から徒歩1分、地下にひっそりと佇むアジアンレストラン「マザーパレス」。インド・タイ・ネパール・ベトナムの香りが混ざり合うこの場所で、今日も“日替わり彼”とナンに出会う。
カレーの種類は日替わり、ナンは熱々、そして最後にラッシーが静かに余韻を閉じる。
家庭のカレーライスとは違う、外食としての“カレーの顔”がここにある。
本記事では、吉祥寺のスパイス空間で感じた小さな驚きと、ナン文化の背景、そしてラッシーの照れくささまでを、余白とともに綴ります。
吉祥寺駅から徒歩1分、地下のアジアンレストランへ
吉祥寺駅北口から徒歩1分。地下へと続く階段を降りると、スパイスの香りと異国の気配が漂う「マザーパレス」が現れる。インド・タイ・ネパール・ベトナム料理が楽しめるこのアジアンレストランは、武蔵境の人気店「インドダイニング ニキタ」の2号店として2021年にオープンした。

店内はオレンジ色の椅子が並び、料理は一流ホテルで要人を担当していた熟練シェフが手がける。40種類以上のカレー、パンプキンチーズナン、ミックスパコラなど、スパイス初心者にも優しいメニューが揃っている。
日替わりカレーは、今日の“彼”かもしれない
今日も日替わりカレーを注文する。何が“日替わり”なのかは、出てくるまで分からない。もしかしたら今日は彼(カレー)が厨房に立っているのかもしれない。日替わり彼。あるいは器が毎日変わっているだけかもしれない。そんな妄想をしながら待つ時間も、インドカレーの魅力のひとつだ。
厨房の奥でスパイスを混ぜる音が聞こえる気がして、今日の“彼”はどんな気分でカレーを作っているのかと想像する。昨日は怒っていたから辛めだったかもしれない。今日は優しい気分で、きのこを入れてくれたのかもしれない。

ナンは断るまでが一連の流れ
サラダはいつものオレンジ色のドレッシング。しかもまあまあ掛けてくる。遠慮のない量に、店の気前の良さを感じる。ドレッシングが多いと、野菜がちょっとしたスープみたいになる。これはこれで、インド料理の“湿度”として受け入れる。

ナンはめちゃめちゃ熱い。指先でちぎると、湯気が立ちのぼる。ナンおかわりは?とインド料理のお約束タメ語。大丈夫と言っても、その後2回は聞いてくる。これもインドカレーあるある。ナンは“断るまでが一連の流れ”なのかもしれない。
チーズナンは主食か、デザートか
最近は、チーズナンやガーリックナンもある。チーズナンは、もはや主食というより“デザート寄りの主役”。とろけるチーズがナンの中にぎっしり詰まっていて、カレーにつけると濃厚すぎて笑ってしまう。ガーリックナンは、香りだけで食欲が加速する。ナンが“ただのパン”ではなく、“選べる個性”になったことで、カレーとの関係性も変わってきた。
ナンはインドから来たようで、日本が育てた
日本でナンが広く食べられるようになったのは1990年代後半から2000年代初頭。きっかけは、ある日本人が「インド料理にはタンドール窯が必要だ」と思い込み、窯を製造・販売し始めたことだった。実際、インドでは家庭ではチャパティが主流で、ナンは高級レストランでしか見かけない。
その後、ネパール人が経営するインド・ネパール料理店が全国に広がり、ナンとバターチキンが定番化。つまり、今目の前にあるこのナンは、インドから来たようでいて、日本が育てた“インド風”なのかもしれない。
カレーライスは家庭料理だった
先日、「今日の夕ご飯はカレーライス」と言ったら、娘に「カレーでよくない?」と返された。たしかに、言葉としては「カレー」で通じる。でも、僕の中では“カレー”だけでは足りない。今の時代、「カレー」と言った瞬間に、ナンなのかライスなのか、はたまたスープカレーなのか、選択肢が広がりすぎてしまうからだ。
カレーライスは、家庭料理だと思っていた。夕方の台所で、ルウの箱を開けて、じゃがいもと玉ねぎを炒める音。湯気の向こうに、家族の声がある。外で食べるものではなかった。でも、ナンが出てきて、カレーの新たな時代のとばりが下りた。
ごはんかナンか、今はどのナンか
昔は「ごはんかナンか」を選べた。ランチセットの注文時に「ライス?ナン?」と聞かれるのが定番だった。でも最近、ナン一択の店が増えた気がする。ごはんがメニューに載っていても、なんとなく“添え物”扱い。もしかして、お米が高くなったからだろうか。
ナンは小麦粉とヨーグルト、ベーキングパウダーで作れる。しかも、焼きたての香ばしさと見た目のインパクトがある。コストパフォーマンスと満足感のバランスが、ナンの方に傾いているのかもしれない。
ラッシーは照れながら頼む
この手のランチセットには、たいてい飲み物がついてくる。コーヒー、ウーロン茶、チャイ、そしてラッシー。僕はいつもラッシーを頼む。ヨーグルトの甘さと、ほんのりスパイスの余韻を包み込むような優しさがある。カレーの後に飲むと、口の中が“インドから帰ってきた”ような気分になる。
でも、ちょっと照れる。ラッシーって、なんだか可愛い。名前の響きも、見た目も、白くて冷たくて、ストローが刺さっていて。隣の席で誰かがウーロン茶を頼んでいると、少しだけ“自分だけ甘いものを選んだ人”みたいな気持ちになる。でも、それでもラッシーを選ぶ。照れながら、甘さに包まれる。
ラッシーは、カレーの余韻をやさしく閉じる“エンドロール”みたいな存在だ。辛さのあとに、静かに流れる白い時間。だから僕は、今日もラッシーを頼む。照れながら、堂々と。
店舗情報|マザーパレス 吉祥寺店
- 📍所在地:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3 コスモビルB1F
- 🚶♂️アクセス:JR中央線・京王井の頭線「吉祥寺駅」北口より徒歩1分
- 🕒営業時間:11:00〜15:00(ランチ)/17:00〜22:00(ディナー)
- 📞電話番号:0422-27-2955
- 🍛ジャンル:インド・タイ・ネパール・ベトナム料理
- 💳支払い方法:現金・各種クレジットカード・電子マネー対応
- 🪑座席数:約40席(テーブル・カウンターあり)


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