さかのぼること一週間前。夕食後のソファでくつろいでいたとき、奥さんがスマホをこちらに向けて「これ、かわいくない?」と聞いてきた。画面には、淡いピンクのマグカップ。マリメッコの新作らしい。 「うん、かわいいね」と、私はごく普通に答えた。事実、かわいかった。でもそのときは、それ以上の意味を深く考えなかった。
マリメッコとは
マリメッコは、フィンランド発祥の世界的なファッションブランドで、特に大胆でカラフルなプリント柄が特徴です。1951年に設立されて以来、テキスタイルデザインを中心に、衣服やインテリア用品など幅広い製品を展開しています。マリメッコのデザインは、シンプルながらも個性的で、日常に彩りを添えるアイテムとして多くの人々に愛されています。ブランドの魅力は、その独特な色使いとパターンにあり、北欧の自然や文化からインスピレーションを受けたデザインは、世界中で高い評価を得ています。
吉祥寺のマリメッコ
吉祥寺のマリメッコは、駅から徒歩5分ほどの便利な立地にあり、豊富な商品ラインナップと温かみのある接客で地元のファンに親しまれています。
店内は明るく開放的で、季節ごとの新作もいち早く手に取ることができます。
マリメッコの世界観を身近に感じられる場所として、多くの人が訪れています。
特に吉祥寺は、個性的なショップやカフェが集まるエリアで、マリメッコの店舗もその魅力の一つとして地域に溶け込んでいます。

伏線回収の瞬間
“ちょっとだけ”という言葉には、いつも何かが潜んでいる。私はそれを知っている。でも、知らないふりをするのもまた、夫婦の呼吸というものだ。
店内に入ると、彼女はまっすぐにマグカップの棚へ向かった。私は少し遅れてついていく。棚の一角に、あのピンクのマグが並んでいた。
「これ、やっぱりかわいいよね」
「うん、やっぱりかわいいね」
繰り返される“かわいい”の応酬。すでに答えは決まっているのに、
なぜか一度は「どうする?」と聞いてしまう。
「どうしようかなぁ…」と悩むふりをする彼女。
「買っちゃえば?」と背中を押す私。
「え、いいの?じゃあ…ありがとう」
その瞬間、彼女の顔がふわっとほころんだ。私は、あの一週間前の“かわいいね”が、今日のこの瞬間に向けた伏線だったことを、ようやく理解した。

帰り道、紙袋を大事そうに抱える彼女の横顔を見ながら、私は思った。 誘導されたというより、導かれたのかもしれない。ピンクのマグカップは、ただの器じゃない。夫婦の間に流れる、静かなやりとりの証だった。


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