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東京駅ラーメン「斑鳩」完全レポ|創業秘話となるとの小さな真実

券売機の前に並びながら、ナルトに思いを馳せる

東京駅のラーメンストリート。昼時を少し外した時間帯、斑鳩の前に立つと、券売機には数人の列。だが、店内は意外にもスカスカ。要は券売機がボタン式の旧タイプなので外国人観光者には難しいのであろう。観光客が多いこのエリアでは珍しい光景だ。券売機の前で迷うことなく「濃厚東京駅らー麺」を選び、食券を手に店内へ。

席に着き、ほどなくしてラーメンが到着。スープの表面に浮かぶチャーシュー、メンマ、そして…ナルト。久々に見たその姿に、思わず目が留まる。子どもの頃、ラーメンといえばナルトが乗っているのが当たり前だった。だが最近は、ナルトを見かけることがめっきり減った。しかも、今日のナルトは妙に小さい。直径も厚みも控えめで、まるで「申し訳程度」に添えられているようだ。

これはもしや、物価高の影響か。ナルトは練り物で、原材料の魚肉すり身の価格も上昇していると聞く。ラーメン業界も例外ではなく、具材のサイズや種類にまで影響が及んでいるのだろう。小さくなったナルトは、そんな時代の波を静かに語っているようだった。

そもそも、ラーメンにナルトが乗るようになったのはいつからなのか。ナルトは「なると巻き」とも呼ばれ、渦巻き模様が特徴の練り物。名前の由来は、鳴門海峡の渦潮にちなんでいる。江戸時代にはすでに存在していたとされ、かまぼこの一種として親しまれてきた。

ラーメンにナルトが使われるようになったのは、昭和中期以降。特に屋台文化が盛んだった時代、安価で保存が効き、見た目にも華やかなナルトは、ラーメンの具材として重宝された。赤と白のコントラスト、渦巻き模様のユニークさは、ラーメンのビジュアルを引き立てる役割も果たしていた。

しかし、時代が進むにつれ、ラーメンは「グルメ」としての地位を確立し、具材も高級志向に。チャーシューは低温調理、メンマは自家製、煮卵は半熟トロトロ。そんな中、ナルトは「昔ながらのラーメン」の象徴として、徐々に姿を消していった。

それでも、斑鳩のような店がナルトを添えてくれるのは、どこか嬉しい。小さくても、そこにあるだけで懐かしさと安心感を与えてくれる存在だ。

味わい深すぎるスープの復讐

さて、肝心のラーメンの味はというと、やはり斑鳩。動物系と魚介系のWスープは、濃厚ながらも後味がすっきりしていて、飲みやすい。中太麺との絡みも絶妙で、チャーシューは口の中でとろける。気づけば、レンゲが止まらない。スープを一口、また一口。ナルトを眺めながら、思い出に浸りつつ、気づけばほぼ完飲。

しかし、その代償はすぐにやってきた。店を出て数分後、喉がやたらと渇く。水を飲んでも飲んでも、乾きが癒えない。これはまさに、スープの復讐。あまりに味わい深く、つい飲みすぎてしまった自分への報いだ。

それでも、後悔はない。ナルトの小ささに時代を感じ、スープの旨さに心を奪われた昼下がり。ラーメンは、ただの食事ではなく、記憶と感情を呼び起こす一杯なのだ。⸻

斑鳩とは?

ラーメン店「斑鳩」は、2000年に東京都千代田区九段南で創業されました。店主・坂井保臣氏は元アパレル業界出身で、独学でラーメンを学び、動物系と魚介系を合わせたWスープを特徴とする上品なラーメンを提供しています。店名「斑鳩」は創業地「九段」と、奈良県の歴史ある地名「斑鳩町」を組み合わせたもので、日本的な美意識や品格を意識したネーミングです。

坂井氏は「ラーメンは自己表現ではなく、おもてなしであるべき」と語り、客の声を大切にする姿勢を持っています。ある常連客との口論では、「昔の方が美味しかった」と言われたことに反論したものの、後に「自分本位なクリエーターかぶれだった」と反省。以降は味の追求だけでなく、客の満足を重視するようになりました。

10周年を迎えた際には、従業員との対話を通じて支店展開を決意し、東京駅「ラーメンストリート」への出店を果たしました。現在も「生涯現場主義」を貫き、素材や仕込みにこだわり続ける姿勢が、多くのファンに支持されています。

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